2003年2月の地平線報告会レポート



●地平線通信280より
先月の報告会から(報告会レポート・280)
虹の向こうに異郷が見える
野々山富雄
2003.2.28(金) 牛込箪笥区民センター

◆元気な男の子なら、誰でも一度は夢に見たことがあるだろう冒険の旅。それも、昼なお暗い密林に奥深く分け入り、神秘の湖にすむという怪獣を探し出そうというのだ。そんな危機迫る探検を、本当にやってしまったのが、ノノさんこと野々山富雄さんである。大学卒業を控えた1986年のことだ。

◆会場に現れたノノさんはアフリカの民族衣装姿。彼のDNAは間違いなくモンゴロイドであるはずだが、その違和感のなさに、会場の皆は一瞬にして新宿区民センターからアフリカ中央部コンゴ(現ザイール)の密林の奥地へ、幻の怪獣探検の旅へ、と連れ出されてしまったのである。

◆そもそも、ノノさんの目指した怪獣とは、コンゴ奥地に何万年も前に隕石が落ちてできたらしい円形の湖レテパ湖に住むという「モケーレ・ムベンベ」だ。現地の目撃者によれば、中生代の恐竜の代表格、あの首長竜らしき姿をした動物であるらしい。モケーレ・ムベンベとは「虹と共に現れるもの」という意味だそうだ。

◆駒大探検部のノノさんと早稲田探検部10人からなる11名の探検隊は、36名のポーター達に1ヵ月分の食糧を分散し、マラリヤ、ツエツエバエなど毒虫に脅え、腰まで浸かる湿地帯を半日がかりで抜ける苦難の旅を開始した。しかし、最大の苦難は、どうやら終始「食べもの」の問題であった。せっかく用意した食糧の数々は、道程の先々でポーターたちによって少しずつ消えていってしまい、それを補うべくポーター達が槍や鉄砲で取った猿、野豚、カワウソ、鰐、大蛇ボアまでを「燻製にして」食べざるを 得なかったのである。

◆湖の畔の見晴らしの良い場所に設営されたキャンプからは、常に望遠カメラが向けられて、隊員が片時も離れることなく交替で見張る毎日。しかし、ムベンベは一ヶ月の間ついに姿を見せる事はなかった。

◆ノノさんの人生は、この後も、次々と数多くのユニークな冒険をつないでゆく。農大探検部との中国長江下りや象使いの弟子になってみたりなど少年の頃の夢を実現する日々を送ってきた。とりわけNGOスタッフとして参加した、アフリカ・チャドのサハラ砂漠南部の地、サヘルでは急速に砂漠化する現状を目の当たりにして、緑化運動の必要性に強く心を動かされたという。

◆砂漠化の大きな原因である地元民による燃料用樹木の大量消費。熱効率を考えた「改良かまど」の普及が当面の仕事だったが、緑化には、子供達の世代から意識改革をしなければならない、と思いついたのが、紙芝居だった。自分で絵を描いた“ムベンベの母子物語”を、この日特別披露してくれたが、野々山富雄という人間の優しさが一枚一枚の紙芝居からにじみ出ているようだった。

◆ノノさんは現在、屋久島に居を構え、プロのガイドとして日本の誇る屋久島の自然を観光客に案内している。住まいは、6000m2に及ぶ彼所有の斜面の土地に建てられた手作りの家だ。もう食べたりはしないだろうが、屋久島には猿や鹿、ネズミ、モグラ、イタチなどの動物が生息し、樹齢7200年を誇る(ノノさんの説では多分3000年弱)縄文杉に代表される屋久杉や、亜熱帯のガジュマルなど、幅広い生態系が展開する。自然が満喫できる島のトレールはノノさん特有のユーモアたっぷりガイドによって、違った時間が流れる世界を体験できるかもしれない。そのうち、ここに子供達を集め冒険教室をオープンする予定があるとか。

◆破天荒な冒険人生を送ってきたノノさん、メガネの後ろにあるその目は、自然の動植物をこよなく愛しかつ見守っている何とも温かい優しさに満ちた瞳なのである。[元祖バックパッカー、現地平線受けつけ専門官 藤原和枝]


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