2005年12月の地平線報告会レポート




●地平線通信314より

先月の報告会から

犬を見れば世界が見える

滝野澤優子

2005.12.22 榎町地域センター

「旅好きなら犬好きのはず」「犬好きに悪人などいる訳がない」と信じて疑わない、我が地平線会議。戌年を目前にした12月の報告者は、滝野沢優子さん。ロシア〜アフリカ〜アジアをパートナーの荒木健一郎さんと2人で走ったバイク旅から、この年の4月、3年8ヵ月ぶりに帰国した。

◆報告会は、1枚の犬のスナップで始まった。15年前、タマンラセットのキャンプ場で2週間ちょっとを一緒に過ごしたマラドーナだ。トイレにもついて来るほど仲良くなり、愛犬をなくした直後の滝野沢さんにとって、大きな慰めとなった。彼女の『犬旅』の原点とも云える存在だったが、「滝野沢さんが出発して2日後に姿を消した」という報せを、後日、キャンプ場に居合せたあの河野兵市さん(注:01年5月北極海から生きて還らず)からもらったという。

◆『地平線犬倶楽部会長』も務める彼女の持論は、「犬を見れば世界がわかる」だ。ヨーロッパでは、電車にちゃんと犬料金が設定されており、ホテルも同伴で泊まれるのが普通だという。人と一緒に自由に旅行できる、つまりは、家族の一員としての当然の権利が犬にも認められている。愛犬と共にシャモニーのゲレンデを登る山スキー客、犬連れでバルセロナの路上にたむろするヨーロッパ各地からのヒッピーやパフォーマー、サイドカーにシェパードの混血犬を乗せて旅するドイツの夫婦‥。羨ましいばかりの光景が、次々と映し出される。

◆そのヨーロッパも、北に較べて、南の犬の飼い方はかなりいい加減だという。「見かねたドイツ人旅行者が、連れ帰ってシェルターに入れることもある」と滝野沢さん。ポンペイでは、ノラたちが世界遺産にマーキングしても誰も咎めず、そればかりかドッグフードや水まで用意されていた。人の気質と犬の気質は相関関係にあるのかも知れない。ノラ犬天国のアテネでは、オリンピックを控えた年に当局の手で処分されかけたものの、市民がシェルターを作って里親を探し、引き取り手のない犬はまた元の場所に戻したという。これを豊かさといわずして、何というのだろう。

◆アフリカでも沢山のワンちゃんが出迎えてくれた。オールドカイロでのストリートチルドレンとのツーショット、ゴミ箱を漁るノラたち。どの写真からも、ケープタウンの『犬の散歩屋さん』――別荘住まいの金持ちヨーロッパ人の飼い犬を歩かせる――の姿が奇異に感じられるほどの、自立した?彼らの暮らしぶりが窺える。

◆そしてアジア。滝野沢さんによると、インドの中でも、バラナシは犬を見るのに良いところだという。ガートの階段1段ずつに1頭が寝そべり、人と一緒に沐浴し、あるいはヨーグルト屋の前に陣取って、お行儀良くお裾分けを待っている。経済成長が進むにつれ、この国でも犬を飼う人たちが増えてきた。しかし同時に、ラダックで出会った光景も現実だった。路上に横たわるノラ犬の死骸。狂犬病対策で役所が撒いた毒エサの犠牲になり、ゴミ収集車が回収するまで放置されている。2週間のレーでの滞在中、少しでも犠牲を減らせないかと、滝野沢さんは自分でエサを配って廻った。それでも、その後、何頭もの死骸を見たという。南ヨーロッパでは優雅に自由を味わい、こちらでは厄介者として命を狙われる。同じノラでも、何という差なのだろう。

◆犬のペット化は中国でも著しい。雲南での滝野沢さんの観察によると、ここには3種類の犬がいるという。ペットとして可愛がられるのは、マルチーズやチン、チワワなど小型の犬だ。あとの「2種」とは、台車引きなどで働くシェパードのような大型犬、そして、いずれ食べられる運命にある雑種の中型犬だという。

◆各国ワンちゃん紳士録の最後は、10年前に会ったキューバのクロちゃんの紹介で終わった。さりげない登場だったけれど、マラドーナ同様、今も思い出の中に生き続けるアミーゴなのだろう。

◆今回のバイク旅の直前、愛犬ポコちゃんと一緒に、2人は四国八十八ヵ所の札所巡りに出た。長旅の安全祈願と、当分は会えないポコとのひと時を過ごすためだ。後半は、その2+1名のお遍路旅報告。

◆日本の犬後進国ぶりは、早くも、家からスタート地点までの移動で思い知らされた。ヨーロッパとは程遠い交通機関の対応、そして犬連れの宿泊を拒む、巡礼ルートの大半の宿。その半面、人々の好意にも助けられた。

◆1日の移動距離は、ポコのペースにあわせて20〜25キロ、頑張って30キロ。しかも、暑い日中はなるべく休む。途中から荷物もどんどん減らし、「ダンナの釣り道具も自炊道具もみな送り返した」という。

◆肉球保護の靴を履いて巡礼するポコの姿には、意外な効用もあった。それぞれの札所では、本堂までは犬を連れ込めない。そこで、「ポコです。頑張って歩いてます。応援してください」という札をつけて残していった。すると、結構カンパが集まった。合計で2万円くらい。ポコの食費に充てた残りは、ビールとなって2人の胃袋にも流れ込んだ。

◆5月も後半になると、高知はもう真夏並に暑い。黒毛のポコは、般若心経を書いた白手拭を背中に掛けてもらい、模範的な巡礼姿になっていた。そして、梅雨に突入した6月6日。「ポコの前に遍路犬はナシ!」と滝野沢さんが断言する、世界初のお遍路犬(多分)として、結願のこの日を雨合羽姿で迎えたのだった。

◆滝野沢さんの報告の後は、江本さんの指名で、会場の中村吉広さん、田中勝之さん、山本千夏さんたちから、チベット、八王子、モンゴルなどの犬事情が紹介された。最後にシゲさん(注:金井重さん)が立ち上がり、「世界中でペットが流行っている。しかも『私の犬は世界一』みたいな可愛がり方だ。これも、今の家庭生活が昔のようにフンワカしていない現れではないか」という鋭い分析を披露。犬を通して世界の家庭事情までをも看破する、地平線らしい締め括りとなった。

◆報告会前半は滝野沢さん夫妻と同じ目線で世界各地の犬たちを眺め、後半はすっかりポコになり切ってご主人サマの旅に付き合った2時間半。犬好きでなくとも幸せな報告会だった(と思う)。[記録係:みすたーX]


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