2014年4月の地平線報告会レポート


●地平線通信421より
先月の報告会から

イヌゾリラーの至福

本多有香 佐藤日出夫 舟津圭三

2013年4月25日  榎町地域センター

■地平線報告会420回目は、カナダ在住のマッシャー(犬ぞり師)本多有香さんの著書『犬と、走る』の出版を記念した特別バージョン。二次会で有香さんに大好きなビールを存分に飲んでもらうため、二次会場から近い榎町地域センターでの久々の開催となり、有香さんをサポートするカメラマンの佐藤日出夫さんに加え、犬ぞり界の大先輩である舟津圭三さんも駆けつけてくれた。

◆進行役は長野亮之介さん。タイトルの「イヌゾリラー」というのも長野さんの命名で、「シャネルの愛好家をシャネラーと呼ぶように、犬ぞりを好きな人たちがやって来る」ことにちなんで名付けたそう。長野さんは人前で喋るのが苦手だというスピーカーたちに配慮し、開始早々からアラスカンハスキーを模した自作のヘルメットを被って犬に変身した。題して「犬と、喋る」。

◆最初に登場したのは、カメラマンの佐藤日出夫さんだ。佐藤さんは1992年4月に初めて訪れたアラスカで「アイディタロッド」という犬ぞりレースがあることを知り、詳しい情報を持たないまま、翌93年の大会の撮影に飛び込んだ。そこで舟津さんと偶然知り合い、以来、舟津さんに犬ぞりについて教わりつつ四半世紀にもわたってレースを撮りに行っているという。

◆ちなみに、アイディタロッドはアンカレジ

〜ノーム間の約1800キロをつなぐ世界最長の犬ぞりレースで、「地球上で最後の偉大なレース」などと称される。一方、有香さんが4度挑んだ「ユーコンクエスト」はホワイトホース(カナダ)

〜フェアバンクス間の約1600キロのレースで、距離的にはアイディタロッドより少し短いが、チェックポイントが少なく大きな山越えが4つもあることなどから、こちらは「世界で最もタフなレース」と言われる。チェックポイントの数が違うため積み込む荷物の量にも差があり、ゆえにスピードも異なる、「違うタイプのレース」(舟津さん)という。どちらも日が短い極寒の冬空の下、主に人里離れた雪原や凍った川の上などを10日前後で走り抜ける点では同じだ。

◆佐藤さんはスーパーカブという小型の飛行機をチャーターして、この長距離・長時間にわたる犬ぞりレースの撮影に臨む。チェックポイントや怪我した犬を棄権させる「ドッグドロップ」、暖かいキャビンや食事などのもてなしを受けられる「ホスピタリティストップ」など、犬ぞりチームが必ず通る地点や、そこから予想されるルート上で待ち構えて撮影し、レースを追いかけるように再び点から点へと飛ぶ。とはいえ、コースを外れるチームもあれば、いつ通るのかも分からない。GPSを積んでいる現在でも30分や1時間待つのは当然で、それがなかった頃は雪原の中で半日や1日待つこともざら。「いつ来るか分からない犬ぞりをじっと待ち、しかもやり直しのきかないレースの一瞬を捉える。それをずっと続けて来られたのは、すごい忍耐力だと思う」。舟津さんは佐藤さんをこんな風に評した。

◆しかも、佐藤さんの撮影行は仕事ではなく個人的な作品作りのためだといい、安くない渡航費をはじめとする費用は全て自腹で続けている。「長く続けてこられたのは、なかなか思ったようなシーンに出会えず、未だに悩みながらやっていることが理由かもしれない」と佐藤さん。レース前の新聞報道などでマッシャーの個人的なバックグランドに触れられることも、ますます興味をひかれる理由のようだ。

◆そんな生き様で魅せるマッシャーの一人、舟津圭三さんは、1986年に他のマッシャーの手伝いとして初めてアイディタロッドに参加した。舟津さんは、そのレース経験に触れ、「犬と人間が一緒になってアラスカの原野を走るのはすごく感動的で、いつかは自分も走りたいという夢を抱いた」と振り返る。その後、犬ぞりによる89年のグリーンランド縦走、90年の南極大陸横断を経て、93年にアイディタロッドに初参戦し、完走して新人賞を獲得。97、98年にはユーコンクエストで5位と8位の成績を残した。

◆舟津さんは最初のレースでは犬を借りて出走したが、その後に自分の犬舎を得て、多いときには45匹を育てていたという。私は犬ぞりに詳しくないのだが、舟津さんの話を聞いて、マッシャーは単なる競技者でないというところに興味を覚えた。競馬でいうと馬主と生産者、騎手、調教師、その全部の役割を兼ねていて、しかもチームビルドの面白みがあるというのだ。

◆「例えば高校野球の選手と監督みたいなもので、自分のトレーニングや接し方で犬たちに自分のカラーがついていくのが犬ぞりの面白み。しかも、マニュアルはなく、自己流でやるしかない。試行錯誤しながらチーム作りをして、それをレースで試す。借りた犬でも2、3カ月は一緒にトレーニングするが、ゴールしたときの達成感には違うものがある」(舟津さん)。

◆監督と選手の間の信頼関係も重要で、有香さんは著書に「困難な状況を乗り越える方法は一つしかない。厳しいトレーニングを一緒に頑張って、そこでできた信頼関係の下に築かれる『強い絆』だけだ」と記している。しかも、訓練で培われる部分は半分で、もう半分は生来の素質、つまりブリーディングに関わる。「何世代にもわたる犬ぞりファミリーがアラスカにはたくさんいて、そういう人たちにしか分からないテクニックや勘があるのではないか」と舟津さんは言う。

◆最後に本多有香さんが話に加わった。有香さんの家では幼少期から犬を飼っていたといい、初めて飼った紀州犬の健太郎に寄り添うような可愛らしいリトル有香さんの姿がスライドに写し出される。その後、岩手大学在学中に参加したカナダのオーロラツアーで、雪原を駆ける犬ぞりを初めて見てその魅力の虜になったという経緯は本に詳しく綴られている。

◆舟津さんと有香さんとの出会いは1999年1月、ワイオミング州(米国)で行われた犬ぞりのステージレースでのことだ。有香さんはカナダのマッシャーのハンドラーとして参加しており、舟津さんはそのときの第一印象を「ボロボロのブルーのつなぎを着ていて、イヌイットとばかり思っていた」と語る。その後、舟津さんの紹介で有香さんは佐藤さんと知り合ったという。

◆スライドには、佐藤さんが撮影した写真が次々と映し出される。クエストのスタートや犬にブーティーを履かせる様子、観衆におびえた犬たちに代わって有香さんが先頭を切ったゴールにビールでの祝杯、ホワイトホース郊外のアニーレークロードの一角に自力で建てたキャビンと26匹の家族……。それぞれの写真の中の有香さんがいつも笑顔なのが印象的だった。過去には20分で報告を終えた伝説を持つ有香さんは、今回も多くは語らなかったが、なによりも写真の中の活き活きとした表情が「自分の居場所はここなんだ」「これに賭けているんだ」という強い意志とひたむきさを雄弁に語っているように感じた。

◆そのほかに2人のマッシャーの話で衝撃を受けたのは、犬ぞりの“居眠り運転”(!)。レースが進むにつれ犬だけでなくマッシャーにも疲労が蓄積し、そりの上で居眠りをして木に激突するなどして怪我をするケースがあるそうで、(そんな大自然に体が“むき出し”の状態で寝られるの!?)という一瞬の驚きの後から、(ああ、そうか、それほど苛酷なレースなのだ)という理解がついてきた。

◆実際、睡眠不足が続いてもマトモな精神を保てるタフさも勝敗を分ける一つのポイントであるようで、トップ集団ほど睡眠時間は少ないそうだ。例えば有香さんは6時間走って6時間休憩するサイクルで走るが、もっと長時間走って休憩時間はぐっと短くする走法などもあり、舟津さんは「上位は寝ていないか、寝ても1時間を切るのではないか」と指摘する。それに加え、犬やドッグフード、装備の改良などの結果、20

〜30年前なら2週間や3週間かけてゴールしたレースが、いまでは8日間ほどの勝負に。ユーコンクエストなら一日あたり200キロ走る計算だ。改めて、ものすごくタフなレースだと思う。

◆最後に舟津さんは「プロで続けていくのは大変なことだが、今後もアイディタロッドやユーコンに出るチャンスがある。是非続けて欲しい」と有香さんに期待をかけた。また、2005年のセーラムランから有香さんをサポートする九里徳泰さんは、出会ったその日に十数杯ものビールを飲み交わしたエピソードと共に「重要なのはサポーター。日本全部で応援して」と訴えた。私も有香さんの話を再び聞き、本を読んで、無力ながらすっかりサポーターの一員になったつもりの一人だ。有香さんが持つ誰よりも熱い思い。簡単には真似できない愚直なひたむきさ。感動をおぼえるくらいの潔さ。そんな姿に触れると少し心に火が灯る。だから応援したくなる。集まったみんながきっとそうなんだと思う。

◆そして、お待ちかねの二次会はビールパーティー! おなじみの中華料理屋「北京」のドアには、ちょっとおどけて「ビールパーリー」と書かれた長野画伯の力作看板が掲げられ、入り口付近に北村節子さん手づくりのわんこクッキー、店内の天井には久島弘さん、緒方敏明さんらが作成したわんこの写真が吊り下げられたタルチョが張り巡らされ、正面には有香さんのドッグトラック用に画伯が描き下ろしたわんこたちの絵……。いつもの北京がすっかり「アジアの怪しげな飯屋」(丸山純さん談)に様変わりした。

◆有香さん本人による、うつむきがちな乾杯の音頭に続いて、舟津さん、朝日新聞の近藤幸夫さん、角幡唯介さん、九里さんからそれぞれ挨拶があって、やっぱりビールをたくさん飲んだ話などが喜々として披露され、画伯特製ケース入りビール券が贈呈された。

◆そして、もちろん有香さんにもマイクが向けられたが、「自分は不言実行!」とばかりに明言を避けて次々と周りの人にマイクを渡してしまう。そうして、気がつくと酔いの回ってきた有香さんがすっかりその場を仕切って、舟津さんにシューベルツの「風」をアカペラで歌わせ、「箸休めに」と江本さんにロシア民謡の「カチューシャ」を歌わせているのだった。店の外に設けられた特設の立ち飲みバーまで人が溢れ、止むことのないさざめきと春の夜風が心地よい祭りの夜だった。(菊地由美子


報告者のひとこと その1

■皆様、日本では大変お世話になりました。私はユーコンに戻り、仕事待ちをしています。現在は仕事を干されてしまい週3日程度と、たいして働いていないので少し不安ですが、冬の後片付けやドッグヤードの整備に時間を費やしています。かなり暖かいし日が長くなっているので、色々なことが簡単にできます。我が家の美犬たちは皆元気です。そして抜け毛が酷いながらも目茶苦茶可愛いです。

◆地平線の原稿を書くように言われたのですが、結局御礼の言葉の羅列になってしまうだけなので、どうしたらいいのか途方に暮れています。私は本当に幸せ者です。

◆今回の報告会では舟津圭三さんが出てくれたことにとても感謝しています。圭三さんはすごい経歴の持ち主なのに気さくで気の利く、しかも話し上手ですから、いつもは酒無しでは何も出来ない私も、安心しきってビールを飲まずに前に座っていられました。司会者が犬だったから安心していたのかもしれませんが。

◆師匠(注:写真家の佐藤日出夫さんのこと)は見た目はさっぱりしていますが、犬ぞりレースに関することになったらもう、話し出したら熱い男です。そんな熱い彼の雄姿をたくさんの方に見ていただけたのなら嬉しいです。私はいつもいつも師匠からあまりにも色々としていただいているので、今回本が出ることで師匠に少しでも利益が出ればと思っていたのですが、結局私はお釈迦様の手のひらの上にいたようです。悔しいのでもっと有益な人間になって恩返しをしたいです。いつになるかは分かりませんが、その目標に向かって頑張ります。

◆2次会のビールパーティーでは、会場が文化祭を髣髴とさせる可愛く豪華な演出で驚きました。北京が北京ではなくなっていました。ドアのでかい看板から美犬たちの写真まで、愛情溢れる飾りでした。集英社の方々も含め、準備をしてくださった皆さん本当にありがとうございました。荷物が多かったので画伯に描いていただいた諸々の品は現在私の手元にありませんが、ほとんど野島康子さんが名古屋に持ち帰りました(野島さんは日本で活躍されている埴輪顔の女性イヌゾリラーです)。トラックに描く絵は、少しよれましたが無事にこちらに持って来れました。ありがとうございます! 落合さんに頂いた写真を見直してみるにつけ、すごかったなぁと感心しています。かわいい大西さんの司会さばきは微笑ましくてオチがあって最高でした。酒がまわらない間はのりが悪くてすみませんでした。なんにしろ圭三さんの美声をみんなに聞かせることが出来たので、ホッとしています。器の大きな圭三さんにみんなメロメロになったことと思います。

◆ただ、江本さんにはロシア民謡よりも宇宙戦艦ヤマトを歌わせるべきだったと猛省しています。そしてカラオケ大王である朝日新聞の近藤さんに何故私は歌わせなかったのか! 自分にがっかりです。久しぶりに九里大先生のマーク・パンサーも聴きたかったのですが……。私はあっという間に出来上がっていたので、よく判らなくなっていたんだと思います。江本さんの締めの掛け声が「ポーオ!」だったのがこのパーティーの締めに相応しいと思えるほど、笑える楽しい時間でした。本当にありがとうございました。それから、まさか花束をいただけるとは思っていなかったのでびっくりしました。花の一部は野島さんが江本邸に飾ってくれて、お部屋がまさかのファンシー応接室チックに変身しました。残りはこれまた野島さんが名古屋に……。

◆在日中は今回も江本邸にごやっかいになり、超久しぶりに大阪の中島ねこさんと飲むことも出来ました。江本さんとは、ほとんどずっと一緒に行動していたので、私がいなくなってホッとしているころでしょうか? 本当に本当にお世話になりました。

◆ 『犬と、走る』という本ができあがるまでに、本当に色々な方が協力してくださいました。出版されてからも、色々な方が売れるように頑張ってくださいました。そして、たくさんの人たちがビールでお祝いしてくれました。私は本当に本当に幸せ者です。こんなにしていただいているんだから私ももっと頑張らないとと思っています。結局やっぱり御礼の羅列になりました。すみません! ありがとうございました!(カナダ・ホワイトホースに帰った、本多有香) 


報告者のひとこと その2

■報告会と本多さんの出版記念パーティーに参加させて頂きありがとうございました。出版記念パーティーでは本多さんだけでなく自分までも祝って頂き、地平線会議のスタッフの方々の結束力と温かさを思いっきり感じさせてもらいました。出版記念パーティーで、あれだけの人達に応援してもらえる本多さんはあのビールの飲みっぷり良さだけではなく、人柄なのだと改めて感心した次第です。きっと今後も経済的には大変なのでしょうが、男気?を見せて欲しいです!

◆それと出来るだけ早めに、是非アイディタロッドに挑戦して頂き撮影させて欲しいです。また、本多さんのアイディタロッド報告会で写真を交えて皆さんに報告出来る事を楽しみにしてます。(名古屋 佐藤日出夫


報告者のひとこと その3

■「地平線」、大地と空とがつながる所。二十歳代の僕は、この言葉に大いに自分の好奇心をかきたてられました。手段は、自転車であり、犬ぞりであり、スキーであり、自分の足であったりしたわけですが、当時の「地平線会議」の刺激的な分厚い冊子を読みながら、冒険者たちの世界に浸り、また憧れを持たせてもらったことが、ついこの間のように感じられます。あれから30年、その地平線会議が今でも存続し、報告会も毎月開かれていることは、本当に素晴らしく思います。今回、その日本の「王立地理学会」とも言える、いや、そんなに敷居が高くなくて、もっとくだけて楽しい、一度参加してみたかった「地平線会議」の報告会に初めて参加させて頂きました。

◆そもそも今回の報告会に参加できた理由は、イヌゾリラー・本多有香さんの『犬と、走る』出版記念報告会があると聞いたからです。数少ない日本人同業者として、彼女をお祝いしたかったので、一時帰国の大阪から駆けつけました。有香さんとの付き合いは、15年近くになります。本の中では、今に至る彼女の「ワイルド」な生き様が、よく描かれていたと思います。彼女の生い立ち等、本多有香を再認識した箇所もありました。夢に描いたユーコンクエスト完走に至るまでが、本当に大変だった。

◆アラスカに暮らしてきた僕は、若さの勢いで、イヌゾリラーを目指す彼女を外から見ていて、危なっかしいなー、心配だなーと思った時が正直ありました。ユーコンクエストで、毎回のように起こるレース中の不運な出来事、運不運も実力のうちとよく言いますが、彼女自身の中に、不運の原因があったのかもしれません。でも、彼女は、そのことを毎回反省し、修正しつつ、辛い思いにめげることなく、新たな前進をし続けた。最後まであきらめずにやり抜いて、とうとう完走しました。

◆異国に住みつくこと、仕事を持ちながら、開墾生活から、全て一人で犬の世話、トレーニングもすることが、どれほど大変か、同胞イヌゾリラー(長野さんのこの言葉がとても気に入りました)としては、その苦労がよくわかるだけに、彼女のフィニッシュは感動的で、また、世話になった今は亡き西山周子さんが書かれている部分には、思わずウルウルしてしまいました。思い続け、諦めなければ夢は必ず実現するということを、彼女は体現してくれた。多くの読者をきっと勇気づけてくれるに違いありません。

◆イヌゾリラー稼業は、「世界一」と称する自分のワンコと、生活を共にするわけですから、いったんはまってしまうと、なかなか抜け出せない魅惑の世界です。最大の長距離犬ぞりレース、「アイディタロッド」完走も、彼女の視野にはあるはずです。はまった以上、次なる彼女の「地平線」に向かって、これからも前進し続けてもらいたいし、ぜひ、資金難という大きな課題を乗り越えてアイディタロッドのゴールの町、ノームでの美酒も味わってもらいたく思っています!!(舟津圭三


『犬と、走る』と祭りのあと

■忘れられない楽しい夜でした。本多有香さんと佐藤日出夫さん、愉快すぎる出席者の方々の温かい気持ちとはじける笑い声に包まれ、酔いが一気にまわりました。舟津圭三さんの美声もスーパーかっこよかったです! まだほのかに熱気の余韻が残っています。

◆ところで自分について人に語ったり有名になることに興味がない本多さんが、そもそもなぜこのような大作を書いたのでしょうか……? 実は5年ほど前から本多さんに執筆をすすめていたのが江本さんでした。そのころから本多さんは短い原稿を書きためるようになり、時間をかけて何度も何度も何度も書き直してきたそうです。キャビンにあるノートパソコンの充電が切れたら知人宅まで借りに出かけ、仕事とトレーニングの合間に図書館に通ったりもして。

◆『犬と、走る』は、ひたむきな本多さんの飾らない人柄がそのままかたちになったような、不思議なパワーに満ちあふれた本だと思います。生きてきた事実そのものが豪快、痛快、爽快! ただただ一生懸命で、でもおかしくて、少しだけかなしくて。世の中にこんなぶっとばした人がいることを、もっと多くの人に知ってほしい!とつい熱くなってしまいます。

◆長期にわたった執筆期間中、頭を悩ませるトラブルがたびたび本多さんの前に立ちはだかりました。海の向こうにいるそんな彼女を気にかけながら、国際電話で厳しくも愛情深いエールを届け続けてきた江本さん。さらに本の制作にかかわった集英社の方々や、4.25の成功を目指して燃えながら走ってきた地平線スタッフのみなさんの姿をそばで見ていたら、本多有香さんという人が持つはかりしれないユニークな魅力について改めて強く感じずにはいられませんでした。

◆日本滞在中ビールを飲んで飲んで、くだらない冗談に声を枯らして笑い転げた日々はあっという間に過ぎ、本多さんはカナダへ帰って行きました。「ふなっしってなに?」というラストメールを残して……。ちょっとさびしくなりましたが、ホンダロス症候群にとって最高の妙薬『犬と、走る』が、今やあるのだった! それではしばらく休肝します〜。

追伸:パーリー準備のために奮戦してきた方々をこの場をお借りして紹介させてください!

◆「北京」を『犬と、走る』的別世界に変貌させてしまった奇才芸術家軍団はこちらの方々! 電飾埋込特注看板などオリジナルグッズを怒濤のごとく創作してくださった長野亮之介さん(度肝抜かされっぱなしでした!)、天井をにぎやかに駆けぬけた愛らしいわんこタルチョ監督緒方敏明さん、風のようにあらわれ1ミリ狂わぬ超人ワザで会場をグレードアップして去っていった北京軒先Bar『X』店主Mr.X(このために大阪から上京された!)、鮮烈アイデアとクリエイター魂で難問をめくるめく解決してくれた山本豊人くん。

◆見えないところでたくさん汗をかかれていたのがこちらの方々です! 新宿区スポーツセンターと行き来して滞りなく準備を進めてくださった報告会受付嬢石原玲さん、もう一人の受付嬢山形の網谷由美子さん、絶妙なフォローをさりげなく出してくださっていた日野かこさん、私がどつぼにはまったときの駆けこみ寺加藤千晶ちゃん、いつだって祭り愛全開の車谷建太くん、頼れるキュートなご夫婦福田晴子ちゃんと前田庄司くん、笑顔のキレもの杉山たかしょーくん、榎町の番長関根皓博さん、緊急助っ人の松澤亮さんと大阪のlunaさん、遠隔応援団のねこさんとあみちゃん。さらに可愛い特製わんこクッキーを真心こめて焼いてくださった北村節子さん、当日の花束プレゼンターをつとめてくれたちいさな柚妃ちゃん(5才)と美月ちゃん(4才)。

◆1円でも多くのカンパを本多さんに届けたくて、マイクレンタル代を浮かすために緒方さんの私物アンプを使わせていただきました。重たいアンプを運搬してくださった本多さん命のパーリーカメラマン落合大祐さん、豊富な経験とセンスでここぞ!というとき的確にヘルプしてくださった丸山純さん、終始強力にバックアップしてくださったビール下飲み王武田力さん、マイペースな私に猛烈激烈エモハッパを連日かけてくださった江本さん(江本さんの寿命がちぢまってないか心配です……)、以上が裏リーダーの方々でした。

◆そして「お好きなように店を使ってくださいね」と広い心で準備段階から協力してくださった「北京」の容子ママ(なんと犬ぞり経験あり!)と国際色豊かなスタッフのみなさん。スピーチで盛り上げてくださった集英社インターナショナルの担当編集者田中伊織さん、館孝太郎社長、販売ブースを出してくださった広報の小林恵理子さんと情熱アルバイターやっくん、造本担当の中丸一朗さんにも、心からありがとうございました。(ビールパーリー実行委員長 大西夏奈子

著書から伝わる、本多有香さんの不器用さの魅力

■『犬と、走る』、一気に読みました。まず、地平線会議で噂に聞いてきた本多有香さんという方が、こういう人物だったんだな、というのを知ることができてよかったです。パーティーではビールを空けるのに忙しいなか、あれこれ聞くのも気がひけるものです。その人がどういう人間で、どんな人生を生きてきたのかを教えてもらいたい時、本人による著書を読むのは最もよい方法の一つです。ですから、著書ができた、というのはとてもありがたいことでした。

◆全編を通じて、本多さんの真っ直ぐな情熱と根性が貫かれていました。過酷な生活や波乱の運命を越えてでも正直に生きる姿には、誰もが「スゴい」「パワフル」「自由だ」と口を揃えるのではないでしょうか。しかし私は、夢に向かって突き進む清々しさの中に、むしろ、そうしなければ生きられないある種の不器用さのようなものも感じ、そこに魅力を覚えました。

◆読みどころに感じたのは、犬ぞりレースとはかくなるものか、という実態がきわめてリアルに描写されている点です。エサの準備、個性的なマッシャー達、レース真っ最中の目線。本多さんと一緒に北の大地を旅しているような気持ちになりました。自分ももう犬ぞりレースに出られるんじゃないかという気すらしてきます(笑)。雪原の旅をありがとうございました。欲をいうならば、わんこたちへの溺愛ぶりをもっと露骨に伺ってみたいな、なんて……。

◆そして、自分のことを話すのが苦手、と耳にしておりますが、本多さんの半生で得た信念なり教訓なり、あるいは犬ぞりの快感についてなり、さらに詳しく教えていただきたいなあ、と思います。というわけで、次作も楽しみにしています! PS:子犬と笑顔が光る黄色いカバー、元気さが伝わってきますね! とびらも写真が大きくて良かったです。(福田晴子

パーリーの成功は、軒先bar『X』でのひらめきにあり!!

■江本さんからの電話を、私は大阪の実家で取った。「会場作り、頼むぞ!」 地平線名物“エモの一声”で、帰京が決まる。担当はステージ周りの飾り付けらしい。ただ、飛び交うMLを眺めていても全体像はサッパリ掴めない。オマケに移動前日の『エミちゃんとランチ』の二次会で、私は生まれて初めてカラオケボックスを体験。耳栓をも貫くノイズに粉砕された。1時間で逃げ出し、帰宅後すぐ横になったものの、頭のクラクラは翌日も取れない。座席のシートベルトを締め、次に気付いたら雲の上だった。不運は続き、出遅れを挽回すべく、夕食を兼ねて下見に訪れた『北京』は、本日貸し切り。残り3日なのに、と不安が募る。

◆そこへ、大西夏奈子、山本豊人の両名が到着。様子見のため、我々も入り口付近に陣取り、近所のスーパーで買い出した缶ビールとおつまみを並べて、軒先bar『X』を開店した。「店の外にも席を作れるね」「わんこクッキーを店内のあちこちに隠して、参加者に宝探ししてもらおう」「出版社のエラいさん達は、階段にゴザ敷いて、ひな壇の特別席!」。呑みながらの作戦会議だから、アイデアも続々だ。

◆そのハイ状態のまま、ようやくお開きとなった店内に入り、後片づけで忙しいスタッフを横目に作業にかかる。壁の採寸、天井の飾り付け方法の確認、テーブル配置の検討……。立食スタイルも、この場で決まった。先の貸し切りが、50人ちょっとで身動き取れなかったためだ。こうして全てをチェックし終えた時、何をどうすべきか、ほぼ完璧なイメージが私の脳裏に出来上がっていた。それを手直ししつつカタチにし、無事、当日を迎える。一打逆転となったあの宴。報告会は覗けなかったけれど、こんな楽しみがあるから裏方はやめられない。

◆最後に、『北京』の皆さんに一言お礼を。店内を自由に使わせて戴いた上に、当日、1時間半も前に現れた我々のために、貸し切り時間を早め、何組ものお客さんを断って下さいました。「軒を貸す」どころか「母屋まで取らせ」て下さった皆様の協力がなければ、今回のパーティーの成功はなかったでしょう。本当にありがとうございました。[軒先bar “X” 店主]

あのユーコンの土地をぼくの絵が走るなんて、ワクワクする!

有香の犬絵

■「ガハクぅ〜、絵がまだ届かないんですけどぉ〜」。報告会開始前のざわめきの中、本多有香さんがいたずらっ子のようなニヤニヤ顔で近づいて来た。犬ぞりレースの際に犬を運ぶ[ドッグボックス]を飾る絵の事だ。すでに用意してあるけど、会の最後のサプライズプレゼントだから、直前まで有香さんにはナイショなのだ。彼女の来日中マネージャー的に有香さんに同行している江本嘉伸さんも、一生懸命口を閉じているはず。ここでバラすわけには行かない。「そうだよねー。わー、ごめん。絶対描くから……」とヘタな芝居でお茶を濁した。

◆有香さんのドッグボックスの左側面には、地平線通信に僕が描いた犬ぞりの絵がすでに使われている。その対になる絵を頼まれたのは、2年前(多分?)。報告会後の酒席でのこと。有香さんの行動と人柄に惚れたファンとして二つ返事で引き受けた。それに彼女の犬舎に近いカナダ・ユーコン準州のホワイトホースは第29回報告会で僕が報告した「ユーコン川イカダ下り」の旅の実質的な出発点。その土地を僕の絵が走るなんてワクワクする。左がわは犬達の正面の顔なので、右がわは車の進行方向に合わせ、彼女のワンコ達が走る横向きの姿を描いた。

◆注文を長く引き延ばした後ろめたさも手伝い、他にもいくつか後方支援に作らせて頂いた。報告会で僕が被った犬帽子は紙製の張り子。家電製品のパッキングに使われるパルプで制作したのだが、これが予想以上にうまくいき、創作意欲に火が点いた。パーティ進行用に車谷建太君に頼まれたビール券入れは、有香さんにプレゼントする際目立つよう高さ70cmに。武田力さんに頼まれた会場の案内看板は幅100cm、高さ150cmと次第に大きくなった。調子に乗って仕込んだ電飾が、会場の[北京]のドアでチカチカと怪しく瞬いた。アーチスト緒方敏明さんに唆された本の販売用ポップにはダンボールの犬も。こういう時、僕は集中力がアップして仕事も速い。丸山純さんに「やりすぎ」と言われたほど楽しんでしまった。

◆さて報告会最後のプレゼントタイム。有香さんはビックリしてくれたのか、あるいは僕のヘタな芝居でバレてたのか、真相は満面の笑みに隠れて分からなかった。絵の感想も聞きそびれたが、もしも採用されたなら、僕の絵がアラスカを走る姿をいつか直接目にしたいものだ。(長野亮之介

素晴らしかった地平線芸術家集団の演出

■報告会ではお世話になりました。本多有香さんは(予想どおり?)あまり話をしなかったけれど、犬ぞりレースの写真を撮り続けてきた佐藤日出夫さん、そして飛び入り参加の舟津圭三さんのお話を聴けてよかったです。舟津さんとは20年程前に鳥海山麓で開催された犬ぞりレースにゲスト出演していた時にお会いして以来かも。「北京」での出版お祝いビールパーリーは、長野画伯はじめ地平線芸術家集団の演出がすばらしかったですね。

◆翌日は早く『犬と、走る』を読みたかったので出発二時間前に空港へ行って本を開き、飛行機の中でも読み続けてその日のうちに読了。ユーコンクエストのレース中は公式サイトで本多さんのレース状況を確認していて、チェックポイントに到着する時間が遅すぎると「何があったのだろう?」と心配していましたが、この本を読んであの時はこういう状況だったのかというのがわかりました。本多さんが卒業後に就職した先がわたしと同業だったのも何だかうれしい^^;

◆近所の書店に行ったら『犬と、走る』があったので、少しでも目立つように並べ直しました。隣りには角幡唯介さんと高野秀行さんの『地図のない場所で眠りたい』が並んでいたので、思わず購入。北京には角幡さんも来ていましたね。機会があればまた報告会に行きたいと思います。皆さまにもよろしくお伝えください。(飯野昭司 山形県酒田市)


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