96年10月の地平線報告会レポート



●地平線通信より

フィリピンの裏舞台〜高世仁
  1996.10.29/アジア会館

●1989年7月のことだった。ボルネオ島の熱帯林で、私が先住民とその生活を共にしていた村に、弁護士を中心とした日本人の調査団がやってきた。その中に、ぷっくりとした色白の、一見オカマにもてそうな男性がいた。それが高世さんだった。熱帯林伐採の取材に来たのだ。

●どこでもそうだが、いわゆる『被害者』に話を聞くときは注意がいる。ついつい、ありもしない話で事実を誇張してしまうからだ。弁護士の先生たちは村に来ていきなり話し合いに入った。一番まずいパターンだ。村人は先生たちの意図に応えようと、大袈裟な話のオンパレードをサービスした −みんな栄養不足だ、ボートを作る木もない、魚も一匹もいなくなった、伐採が始まってから子供に皮膚病が…、木材会社の人間の首を切ってやりたい! うーん…。

●先生たちは実際、帰国後に「先住民はこんなに困っているのです」との報告書を作成したらしい。一人だけ違っていたのが高世さんだった。話し合いの翌朝に私のところに来てこう言った −「ねっ、聞きたいんだけどさ,この人たちは本当に困ってんの?」。おっ、つきあえるぞ、この人とは!

●高世さんの取材はきわめて的確だ。表面的な事象ではなく、なにが問題の本質かを見抜く目を持っている。今までのスクープは、囚人腎臓売買、北方領土一番乗り、サハリン残留韓国朝鮮婦人、アウンサウン・スーチーへのインタビュー、そしてスーパーK(高世さんの独断場)。話もうまい。特に興味深く聞かせてもらったのが、3年間駐在していたフィリピンの裏話だった。

●火災保険目当てで自分のホテルに放火するオーナー(高世さんの同僚が巻き込まれた)、葬儀屋からのリベート欲しさに死体確保に血眼になる消防士(消火はしない)、弁護士も裁判官もカネ次第、事前に賄賂を払えばその場で答えを教えてくれる自動車免許試験、大学の卒論だって雑貨屋で販売、恨みをかえば、警官、入管グルで投獄の憂き目にあう…。

●檻の中にいるはずの囚人が、最低2週間の病院での安静が必要な腎臓摘出手術を受けている。ここを取材するうちに,高世さんは、刑務所の中がきれいに四つにギャング団の支配下に分かれていて、その一つ「シゲシゲスプートニク」(行け行け!スプートニク号)と知り合い、奇妙な親交を深めることになる。

●人を閉じこめておく場所の刑務所が実はギャングの総本山。人を殺すために外出して、2、3日後にまた戻る。何でもありのフィリピン。しかし、高世さんは、腎臓問題が日比両国の国会で問題になるにいたり、命を狙われることになる。その情報をつかんだその日に国外脱出。

●「でもね、フィリピンには善人と悪人との境目がないんだよね。そのへん歩いてる奴が人を殺している。かといって、貧しいものでも生きていける相互扶助は必ずある。誰でも決して過去を問われずに生きていける。フィリピンは目茶苦茶だけど好きなんだよね」

●高世さんは最後に、アジア各国で実施された『自分が幸せかと思うか』のアンケート結果を発表してくれた。フィリピンが断突で90%以上。最低が日本だった。母親は子育てに疲弊し、障害者や老人は施設に隔離され、サラリーマンは時間に追われる。フィリピンが無秩序の中の秩序とすれば、日本は秩序の中の無秩序の国かもしれない。

●だが高世さんは6年前、私の報告会を聞くために地平線会議に参加したのをきっかけに嫁さんをみつけたという幸せ者である(4回目のデートでプロポーズ)。

●来年は是非北朝鮮の話を聞かせていただきたい。[樫田秀樹]




●NIFTY-Serve「地平線HARAPPA」に書き込まれた感想




8483 [96/10/30 10:40] PEG00430
丸山:カレンダーは大人気でしたが……

●●ヒンカラの会場で冷えたのか、風邪がひどくて昨日は休みたかったのですが、なんせ『DAS』のシール貼り(印刷屋さんから直接宅急便で送ってもらったので)があったために、無理してアジア会館に出かけました。

●でも、高世さんの報告、ひじょうに楽しめました(なんて言ったらいけないのでしょうけど)。なかでも光っていたのが「カジュアル」というキーワード。フィリピン人のエトス(民族的心性)を表わすのにとてもぴったりくる言葉だと感心しました。話がうまくて、あっという間に過ぎてしまいました。行って、よかった。これについてはまた別の機会に(山上さんも、よろしく)。

●●終わってから『DAS』の宣伝をしたあと、亮之介が用意してきてくれたサンプルのカレンダーを見せたところ、すごい関心の高さで、びっくりするほど。そのサンプルがどれもよくできているせいもあるんですが、ほしい、という声がいくつも飛び出し、写真のほうも絵本のほうも、早々と5〜6人ずつほど予約が入りました。

●ただし、そのあおりをうけたのか、『DAS』は6冊(うち1冊は私がずっとキープしていた杉田晴美さんの分だから、会場では実質5冊)しか売れませんでした。高世さんのファンなのか、けっこう見馴れない顔があったので、これはしめしめと思っていたんですが……。

●今後は、5冊も準備すればよさそうですね。

●●高世さんは、じつはスライドを使わず、録画した自分の番組をビデオに落としてもってきていたので、結局、プロジェクターの出番はなし。山上さんに気の毒なことをしました。

●次回に向けては、ノブリカという会社の影山さん夫妻がもって帰ってくれました。たしか、赤坂だったかに事務所があるんですね。でも、お二人は『地平線の旅人たち』の読者として地平線会議に来てくれた最近参加された人ですので、なんだか申し訳なくて……。

●抜本的な解決法はまだ見つかりません。

●●ビデオは録れませんでした。急に都合が悪くなった場合でも、ひとこと連絡してもらえると助かります>新井君。昨日は山上さんにプロジェクターをお願いしてしまったのでビデオはとうてい無理でしたが、せめてテレコで録音をするぐらいのことはやれたはず。

●プロジェクターのことなどを含めて、お互いに連絡を密にする必要がありますね。個別に電話でやっているとたいへんですから、ここをうまく活用してください。私としては『DAS』のチラシや看板(ささやかなプライス表示)は用意したのに、Tシャツと『旅人たち』まで気が回らなかったのを後悔しています(^^;。

●●体調が悪かったので、二次会は失礼しました。どうでしたか?>武田君。


 

8499 [96/11/01 20:13] MHFXXXXX
山上:ほうこくかい

高世さんの報告をかいつまんでお話しします。

高世さんが取材を行ったフィリピンの裏社会でうごめくギャング団と警察の関係や、フィリピンの医療グループとの日本国内ではできない肝移植をめぐる日本の医療界の間をうごめく不明瞭なお金の正体を追った事を中心に、自ら命を追われた経験や、これからの取材先についての報告でした。

今回はスライドは使わず、テレビ番組を収録したビデオを見ながらの報告という形ながら、操作面でちょっと戸惑いつつも、あの手のドキュメンタリー番組らしく、おどろおどろしいナレーションとBGMでフィリピンの現実(しかし実際は高世さんからのもっとどろどろした現実の話の補足を受けながら)が展開されていました。

警官があまりにも信頼性がなくなっている現在、ガードマンという職種が大金持ちや地位の高い人の身の回りを守る私設警察のような位置にあるようです。警察がまた犯罪に走る理由としては、給料が極めて安く、ワイロや恐喝でそれを補っているのもあるようです。

会場に来られていたフィリピン人の方(武田さんのお知り合い)が頷いたり、ご自分の出身の島での現実の話をされたりして、これもまたノンフィクションのフィリピンの民族文化とでもいうのか、混沌とした社会をしみじみ感じされてくれるものでした。

世界で行った、自国の満足度調査という国民の意識調査では、フィリピンが極めて高かった、との事です。90%程度だったと聴きます。逆に、日本は40%にも満たない、精神的に不満足度の高い国民だという事。なんだか納得できるような、できないような。(^^;)警官がグルとギャングがグルになって、犯罪の限りをつくして日中から人が平気で殺されるような物騒な国にしては、この満足度というのが不思議な数字なのかもしれません。タイなんかも同じ方向だそうです。

高世さんが臓器移植をめぐって刑務所に取材に行かれた時、その4大ギャングの中のシゲシゲ団の組長と仲良くなった、という話がとても楽しかったですね。でも、現実には緊迫感があったシーンもあったようですが、話がうまく、それを「カジュアル」という表現をされて、そのシゲシゲという名前はフィリピン語では「いけいけ」という意味だとか、その団を表す入れ墨がまるで子供のラクガキのような絵柄だとかいうのもその「カジュアル」という表現にピッタリでした。

ドロドロした、という中に、そのようなフィリピンの民族文化という世界が、とてもその緊迫感を感じさせなかったり、反面極めてアジア的な冷酷な所があったりというのがよく感じれたような気がします。

冒険、旅とはまた違ったジャーナリズムの地平線報告会でした。(^^)

プロジェクターは助かりました。その分DASを4冊もって帰りました。山上 




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