1998年2月の地平線通信



■2月の地平線通信・219号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)

地平線通信219表紙 昨年の10月末、パキスタンのチトラルで過ごす最後の晩。ぱちぱちと音をたてて燃える暖炉の前で、シカンダル一家と恒例の記念写真を撮る。僕に撮らせて、と長男のアリがカメラを構えた。いつもと同じはずなのになんとなく静かなのは、やんちゃなルバダがもう寝てしまったからではない。もうすぐ17になる長女、アミーナも欠けているのだ。彼女は住み慣れたチトラルを出て、ペシャワールの高校へ通っている。おまけに、なんとこの9月に婚約したという。これからは一人ずつ減って、最後は暖炉の前に夫婦2組の4人だけだね、と言うと、そうだな、といつも明るいシカンダルも、少し寂しそうだった。

 シカンダル・ウルムルク殿下は、チトラルの旧王族の一人である。彼と初めて会ったのは、もう16年も前になる。私の甥が、あなたの音楽調査の面倒をみてくれますよ、と彼の妻の祖父でもあるブルハン・ウッディン殿下に紹介されたのだ。同い年というだけでなく、彼の飾らない人柄、べらべらと早口の英語でまくしたてて冗談をとばす快活さに惹かれて、すぐに親しくなった。チトラルでは、誰もがぶらぶらと1日を過ごしているように見えるのに、シカンダルだけは毎日忙しく飛び回り、チトラルの若者たちの親分、という感じだった。

 チトラルでの最初の滞在が半ばを過ぎ、調査のほうも一段落したころ、シカンダルの家族が住むチトラル北部のマストゥージに行こうと誘われた。他の地域ではもはや廃れてしまった古い形の音楽が、ここには残っている、それを聞かないうちは絶対に帰れないよ、と殺し文句をつけ加えることも忘れない。

 マストゥージに着いて驚いた。彼の「家」は「城」だったのだ。イギリス統治時代に撮られた古ぼけた写真と全く同じたたずまいで建っている。ひざまずいて彼の足にキスをする老人。現代的な青年から、古色蒼然とした歴史のなかで生きる王族へと自然に切り替わるシカンダルが、とても不思議に見えた。

 突然の客人に、奥さんのサイーダは大喜びだった。イスラム教徒の女性たちは、家族以外の男性が入れない「大奥」で暮らしている。外の世界との接触はほとんどない。だから、ちょうど同じ年頃の外国人女性がやって来たのは、「人生の一大事」だったようだ。サイーダにはクミンの入ったクワの実ジャムや、チーズとクルミ入りのパンなど、おいしい料理をたくさん教えてもらった。今はやりの髪型に長い髪を切ってくれ、と頼まれたときにはびびったけれど、なんとかお気に入りのスタイルに仕上がってほっとした。ところが、あとでぷんぷんしている。シカンダルが全然気づいてくれないというのだ。英語が話せないサイーダと、お洒落や結婚について身振り手振りと簡単な単語でおしゃべりするのは、とても楽しかった。

 こうしてシカンダル一家とのつきあいが始まった。長女に加えて、長男、次女と、会うたびに家族が増えていく。こちらも結婚した。ところが子どもたちの教育のために一家がマストゥージを離れ、サイーダの実家であるブルハン殿下の館近くに家を構えたとき、ひとつ気になることができた。今までは気楽に家族とつきあってきたが、夫の純はどうだろう。純は結婚する以前からシカンダルと仲がよかったが、家族に会ったことはない。いつも泊めていただいているブルハン殿下の館の大奥にさえ、入ったことがないのだ。ところが夕食に招待してくれたシカンダルは、涼しい顔をして、さあさあと、どぎまぎしている純を自宅の大奥に促す。うれしかった。今から6年前のことだ。

 また来るということはわかっていても、別れ際はいつも感傷的になってしまう。アミーナの結婚式の日取りが決まったら必ず知らせるよ、とシカンダルがいう。これまでは、次々と友人が増えていくだけのような気がしていたが、彼らのほうにも確実に時は流れて、会うのを楽しみにしていたのに、チトラルを離れていて会えない人たちも増えてきた。いつもお世話になっていたブルハン殿下も3年前、銃の暴発事故で亡くなってしまった。

 今年になってシカンダルから手紙が来た。そんなにお礼をいわなくてもいいのですよ、あなたたちが家族の一員だということがまだわからないのですか、と始まる文面を読んでいたら、またどうしてもみんなに会いたくなってしまった。[丸山令子]



先月の報告会から
再生の森から
向後元彦+辻信一+向後紀代美+三輪倫子+長野淳子+西田研志+山田高司+中西純一+司会:長野亮之介
1998.1.27(火)/アジア会館

◆「皆を騙した」という向後さんの言葉で始まった。平和の象徴のためのモデルを作るために様々な立場の人を引き込んでいった。これまでに騙されてベトナムに行った人がのべ数百人に登ると言う。そのうちの10人が登壇し、教員、学者、弁護士、食材探検家、「砂漠を緑に」株主、緑化のプロ等それぞれの立場から「騙されて」行ったベトナムを語ってくれた。

◆諫早問題にも取り組む弁護士の西田さんは、「美味しいものに感動した。それを産み出すマングローブ地域があった。諫早もベトナムもどちらも『おかずの海だ』」。さらに「環境のないところには、人権がない」と。向後喜代美さんは、在住する仙台市の某委員に選出された折り「ベトナムでの枯葉剤によるダイオキシンの影響を目の当たりにして、今のゴミ焼却によるダイオキシン問題を対応させた」。

◆後半は、中西さんの写真でベトナムのマングローブ地域と諫早の「おかずの海」のイメージを皆で共有し、最後に「森と人間の共生」のメッセージを世界に発信するため、カンザー・マングローブ・プロジェクト'98の案内がされた。

◆「ベトナムの村人の『日本のようになりたい』」という声に戸惑いを感じた」(長野)というが、ベトナムは破壊から再生し、「おかずの海」を復活させつつある。視点を変えれば、我々日本人のほうが「ベトナムのようになりたい」である。そのためにも、まずはベトナムに行こう![中島明夫]



4月の報告会はベトナムで!!

4月の地平線報告会は、アジア会館を離れ、ベトナムで開催されるカンザー・マングローブ・プロジェクト'98(CAMP'98)に便乗することになりました。そのため、4月は日本での報告会はありません。日本からのツアーもありますが、もちろん、現地イベントのみの参加もできます。

詳しくは下記マングローブ植林行動計画へ問い合わせるか、ホームページ http://www3.big.or.jp/~actmang/をご覧ください。



――コンサート・植林・シンポジウム・そしてベトナムの旅――
カンザー・マングローブ・プロジェクト'98 (CAMP'98)

カンザーはサイゴンの南60キロ。面積8万ヘクタール。
そこは、かつて、豊かなマングローブ林に覆われていた。
ベトナム戦争勃発……。
レジスタンスは森にひそむ。空から「枯葉作戦」が展開される。
マングローブはすべて枯れ、生き物は姿を消した。
そして終戦……。
人びとは20年をかけて植林し、むかしの生態系をとりもどした。
ここに“破壊と再生”の歴史がある。
われわれは、反省をこめて、また希望をもって、
このマングローブの小さな村から、
「森と人間の共生」のメッセージを世界に発信したい。

 

■参加ミュージシャン 喜納昌吉&チャンプルーズ/新井英一/加藤登紀子

■参加パネラー 加藤登紀子/川満信一/喜納昌吉/向後元彦/渋沢寿一/辻信一/本多勝一など
 ※参加ミュージシャンおよびパネラーは予定であり、変更・不参加の場合もあります。

■日程 1998年4月9日(水)〜4月14日(月)[5泊6日](申し込み締切:3月5日)

■参加費用 158,000円(関空発着/現地イベント費用含む/ビザ代金約1万円は別途)

■詳しくは マングローブ植林行動計画(略称 : ACTMANG)

      TEL : 03-3373-9772 東京都中野区本町3-29-15-1104



地平線ポストから

地平線ポストではみなさんからのお便りをお待ちしています。旅先でみたこと聞いたこと、最近感じたこと…、何でも結構です。E-mailでも受け付けています。

地平線ポスト宛先:〒173 東京都板橋区大山町33-6 三輪主彦方
〜電子メールでも受け付けています〜TAB00165@niftyserve.or.jp 武田力方

●谷川秀夫さんから…98.2.11…カイロ発

◆地平線会議のみなさんこんにちは。カイロの谷川です。毎月、お金も払っていないのに、こんな遠くまで月報を送っていただきありがとうございます。感謝感激。帰ったら払います・・・。忙しさにかまけて、ふと忘れた頃に届く地平線通信を見ながら、忘れかけていた世界を思い出して、その度にもう一度と奮起の気分にさせられます。

◆早いもので、カイロに来てからもうすぐ3年です。早ければこの夏にも帰還命令が出るかもしれません。ようやく中東の<ち>位がわかりかけたところで、まだまだいたいところです。

◆今日、カイロでは大雨が降りました。雨に慣れていない都市なので、どこも洪水です。雨といっても砂混じりの雨で重たい雨です。車は厚い砂のコーティングが施されていました。でも、ホコリまみれの木々の葉が綺麗になり、視界は白黒テレビからカラーテレビになった感じでした。あつくなったり、寒くなったりを繰り返して、もうすぐ砂嵐の季節です。

◆昨年のテロ事件で観光客は激減を通り越して、皆無。今が一番いい時なのかもしれません。今がチャンスです。

◆さて、サダム・フセインが又世の中を騒がせています。近くバグダッドで塩漬けになりそうな気配です。

◆又、時間が出来たらメモ送ります。


●渡辺まちこ・ゲンダールさんから…名古屋発

◆京都での4年間の、密教山伏の勉強修行を終え、故郷・名古屋へ引っ越しました。結婚式場下の会社の結婚カウンセラーの仕事につきました。30代以上の女性の能力を活かせる仕事について、やっと女性であることの自信をとりもどせた様に思います(京都での勤務先が、大峯山伏の総本山だったので、女人禁制問題にしばらくはまってしまっていました)。これからは日常生活や仕事の中に、仏教の教えを活かしていきたいと思います。月いち位で本山の法要に参列し、僧侶の修行も続け、節談説法の芸も磨いていきたいです。またいつか地球のどこかでお目にかかれる日を楽しみにしています。


●埜口保男さんから…98.2.9…千葉発

放送大学の卒論「長期旅人と病気・その対策と療養」のアンケート結果の続報です。

◆地平線会議のみなさま、ならびにJACCのみなさま、アンケート調査のご協力、まことにありがとうございました。計105名もの回答を得て、卒論が無事書き上がりました。論文としての評価は3月上旬の話ですが、通過すれば、給料が1号俸上がるかもしれません。そのときは地平線に還元します。

◆アンケートの結果、1ヶ月以上の長期の旅にでる人は、肝炎、マラリア、赤痢に関しての知識を前もって仕入れておけば、旅行中の疾患においての不安を80%は防げるという結論に達しました。

◆ただし、是は予防できるということではなく、あくまでも罹ったときに的確な対処ができれば、悪化させずにすむということですので、誤解のないように。

◆詳しいデータは、報告会で希望者に配布します。郵送を希望する方は、140円切手同封のうえ、下記まで。

《〒261-0011 千葉県千葉市美浜区真砂3-13-7-106 のぐちやすお》


●のなか悟空さんから…ライブのお知らせ

前後略直文失礼乞
是音楽会案内状也
於ウガンダ製作マホガニー太鼓使用。
久々爆音ライブ是爽快愉快時々耳痛也。
我能力唯一残、ドラム狂叩&旅。
バチ振回乍常時仰南空・・・・。

3/8(日)新宿「ピットイン」
03-3354-2024


アンケート再度の御礼・通信費のお願い!

◆前回アンケートのお礼を言いましたが、その後さらにお返事をいただきました。私たちは、通信を送っても一方通行では楽しくないので、何とか言葉を交わしたいという思いでした。通信をもう送らないぞという脅かしの意図はありませんでしたが、「そんなに大変ならもういいです」というお返事もいただきました。でも本人がいないという以外は、返事を下さった方にはまだまだ送ろうかとも話し合っています。皆さまのからの手紙が、こんなに嬉しいものとは思っていませんでした。ありがとうございました。

◆ところで通信費ですが、これがないとやっていけません。よろしくお願いいたします。通信費はほぼ1年で2000円をお願いしています。送付方法は次の通りです。どうぞよろしくお願いいたします![三輪主彦]

※今回通信費を払っていただく方:昨年の4月以降、通信費を払っていない方

今月の地平線通信の宛名ラベルの右下、VOL.219の右側の[ ]内の数字が、前回払っていただいた号数です。これが[208]以下、または[ ](空白)の方。

1.郵便振替 00100-5-115188  加入者名 地平線会議 (料金…70円)

2.郵便に潜ませる。お金を入っていることがわからないようにして下さい。

3.地平線報告会で支払う。受付にいる人に渡してください。

* 現金書留にはしないで下さい。受け取りが大変なので!
* 銀行振り込みの口座もありません。手数料が高いので!
* 領収書を発行するようにいたしますが、システムができるまでちょっと待って下さい。



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 地平線はみだし情報
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写真展『地平線発』のカタログ写真集が、世田谷区立中央図書館の蔵書となりました。




■今月の地平線報告会の案内(絵と文:長野亮之介/イラストのなかにある手書き文字)

地平線通信219裏表紙

2/20
FRIDAY
6:30〜9:00 P.M.
アジア会館(03-3402-6111)
\500



砂と油の国

サウジアラビアでは、この20年くらいでラクダの数が急増しています。その食圧で植生に深刻な被害が生じていますが、このラクダは食用。それもぜいたく品なのです。経済発展がこんな形で響いてきています。

都市部では共稼ぎの世帯も増えているそうですが、一方で伝統的な生活は厳しく守られています。女と男の世界はハッキリ区別され、家庭内でも居間は別です。女性はアバヤと呼ばれるベールで顔を隠します。参政権もありません。そのかわり女性が何をするにも男が手助けする社会システムですから、考えようによっては手厚く保護されているとも言えそうです。

宮本千晴さん、芳子さんご夫妻は、サウジアラビアの首都リヤドに約5年間滞在し、この1月に帰国したばかり。独特の社会の中では、西洋的価値観が通用しないシーンも多く、夫婦のつきあいも日本とは変わったそうです。

今月は宮本さんご夫妻においで頂き、サウジアラビアの現代事情を話して頂きます。



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