2000年11月の地平線報告会レポート


●地平線通信253より

先月の報告会から(報告会レポート・253)
絹之路走旅異聞
中山嘉太郎
2000.11.24(金) アジア会館


◆地平線会議の魅力の一つに、様々なジャンルの行動者達の報告を聞けるってことがある。世の中こんなことしている奴らがいるのだ、なんて、意外な旅のあり方に気付かせてくれたりする。今回もそんなちょっと異色な旅の方法として、シルクロード2700キロと昆明からバンコクへとランニングで走りぬけたウルトラランナー、中山さんの走り旅の報告です。

◆今まで自転車や徒歩でシルクロードを走破した人はいるけれども、走って旅した人は初めてでは? 第一部はシルクロード砂漠編。西安を6月にスタートしウルムチを目指します。最初は不安とプレッシャーの中で旅は始まり、2日目からいきなり下痢!

◆地元の人には日本人とは信じてもらえず、女の子には逃げられ、風に翻弄されながら走り続けます。よっぽど怪しい風体だったのか? 星を眺めながらの野宿、道路工事の飯場におっちゃんに飯をおごってもらい、小学校にのこのこ出かけて授業参観し、路上靴修理屋でフルタイヤを靴底に貼り付けてもらったりと、生きる術を獲得しながらの旅は続く。

◆万里の長城を越え、灼熱の火焔山の麓を走り、世界で2番目に低い海抜下のトルファンを過ぎ、時として3500メートルの峠を寒さに震えながら越えなければならない。中国の幹線道路には1キロごとに距離ポストが立っており、その数字が増えてゆくのを生きがいに走り続けたという。わかるなあその気持ち。ぼくも自転車で距離感がつかめないほど広大で何もないチベットの大地を走った時は、その距離ポストの数値がキロごとに増えていくのを心の拠り所にしていたから。砂漠の中を行く過酷な道には村もめったにない。時として5〜7リットルもの水を担ぎ、ヒッチハイクみたいにダンボールに“水”と書いて、通り過ぎるトラックを止めてお茶をゲット。運のいい時は砂漠のメロン、ハミ瓜をゲットし、その甘さに舌を打つ。

◆時として怪しい生水を飲まなければならないことも。砂漠の世界では贅沢ばかり言ってられない。だけどそれが原因なのか正体不明の下痢にやられ、病院で点滴を受けるはめに。それでも点滴が終わるやすぐに出発。ハードな旅は53日かかってついにウルムチにたどり着いた。今までこんな旅など早く終わってしまえと思いつつ、実際にゴールを目前にした前日、旅が終わってしまうことがなんだかさびしくなって、もっとどこか遠くに行きたくなる。その気持ちもわかるなあ。ちなみに費用は28000円、食費は1日平均11元。

◆第2部は砂漠の旅からテーマも変わって、今度は雲南から東南アジアの山岳民族の世界へ。列車で昆明に移動。そこからベトナムの国境までランニング走破。ベトナムからラオスへは一転して自転車の旅へ。現地に溶け込むにはやはり変速機のない人民自転車に限る、と中古の自転車を購入し、自作ハンドルでエアロタイプに改造。雨季の森林の道は泥だらけ。高床式の家に住む貧しいけれども素朴で素敵な人々に出会う。タイでは毎晩お寺に泊めてもらいながら、仏教とはなんぞやを教えられ、托鉢についてゆく。出会ったポリスにご馳走になったキングコブラの料理で精をつけ、バンコクにたどり着いた。

◆なぜランニングなのですか? サイクリストのぼくはふとそんな疑問をぶつけてみた。どうして自転車なんですか? とすかさず問い返され、軽くカウンターパンチを食らったがごとくぼくは少しうろたえた。走りつづけるのに理屈などいらない。ただ走りたいから走るのだ。そこに道があるから走るのだ。山があるから登るのだ。自転車では通りすぎてしまう。歩くには遅すぎる。人それぞれに旅のリズムがあり、中山さんにとってはたまたまランニングのスピードがよかっただけなのかもしれない。見たい、聞きたい、話したい、走りたい。現地の人たちに触れ合うのに最も適した速度だったに違いない。

◆会場では中山さんが次に目指すのはどこなのかが話題になった。南米か? それとも地平線の仲間の期待を背負ってウルムチの先のシルクロードを目指すのか? 後で飲み会で話した時にはチベットも走りたいという。どうやら中山さんは走りたい所、走らなければならない所があちこちにあるようだ。遠慮はいりませんよ中山さん。どうぞ好きなだけ世界を走り回ってください。チベットもいいですよ。平地の半分しか空気のない海抜五千メートルのチベットをどこまで走りつづけることが出来るか? これは一種の人類の体力の限界への挑戦ですね。

◆ランナーズハイという言葉がある。極限に達した精神が恍惚の世界へと人を誘うという。それはヘッセの言うところの魔法の劇場への入り口なのかもしれない。中山さんがそれを経験したことがあるかは聴きそびれたけれど、ぼくもまたいつかその扉を開いてみたいものだ。[安東浩正]


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