1995年9月の地平線通信


1995年9月20日に発行された「地平線通信191号」に掲載された記事から、一部をご紹介します。

■9月の地平線通信191号のフロント(1ページ目にある巻頭記事)

この夏、ロシアで「これぞアウトドアー」とでもいうような、面白い体験をした。ボルガ河の源流近く、モスクワとサンクトペテルブルグのほぼ中間、二つの都市からは450〜500キロほどの所にセリゲイルという大きな湖がある。湖というよりは湖水地方、と言ったほうが正しく、大小の湖をこれまた大小の川がつないでいる。その川をたどりながら、ロシア人たちは、さまざまな水の遊び、水辺の暮らしを楽しむのだが、エベレスト南壁を登った有数のクライマーでもある友人の学者の招きで、私は「湖水ヨット遡行」の試みに参加させてもらったのだ。

行ってみてわかったのだが、セリゲイル湖周辺はソ連時代から夏のキャンプ地として人気があった場所で、保養施設も整っていたらしい。ソ連崩壊後は国の援助がなくなったから、施設も荒れているようだが、その分、自然派のロシア人たちは工夫して湖を取り巻く大自然を満喫している。私たちは、湖畔の小屋に預けてある4隻のヨットに分乗した。

乗り込んだのは、大学教授、技術者、科学アカデミーの研究者など、学者を中心に私を含めて13人。皆は2〜3週間の「航海」を楽しむが、私は休みの関係で8日間の参加だった。ヨットといっても船齢半世紀近い古いものを安く買い取って自分たちで改造したもので、エンジンはついていない。適度の風が吹いているうちはいいが、無風の時はオールで漕がなければならない。広い湖上では、それがなかなかの力仕事になった。

毎日、川や湖上を帆走していると、若者たちのカヤックや、手漕ぎボート、時にはモーターボートと出会う。ヨットは運搬手段が大変なせいだろう、我々のもの以外に見たのは一隻だけだった。2隻のカヤックをつないで筏(いかだ)のようにし犬を乗せた家族や、聴覚障害の子供たちの野外教育のため、という10数艇のカヤックの一団とも出会った。

私たちは、気に入った入江があればヨットをつけ、テントを張って泊まる気儘な旅。ただし、皆やることはてきぱきしていた。ヨットを岸辺の木につなぎ、必要な荷をおろしてから、何人かはすぐ森の中にはいって手頃な丸太を何本か拾ってくる。適当な長さに切って4本の柱を土に打ち込み、持参の板をわたすと、それがテーブルになるのだった。椅子は、大きめの丸太を横たえるだけでいい。その間15分。テントを張るとすぐに薪が集められ、おいしいお茶が用意される。そして、今度はキノコ採りだ。

ロシアの森ほどいろいろなキノコが生えている所もないだろう。とりわけ「白キノコ」というのがおいしくて、それを次々に見つけた時の嬉しさは、格別だ。夢中になって森を走り回っているうち、キャンプ地のある入り江に戻る道がわからなくなり、犬の吠え声を頼りに苺摘みに来ていた土地っ子を見つけた時のほっとした気持ちは今も忘れられない。深い森の奥から、「へえー、日本人?へえー」と言いながら、彼はいとも簡単に私に入り江までの道を示してくれたものだ。

食料はモスクワから運んだものを使うが、パンだけは「航海」途中で立ち寄る村々の小さな店で買う。それがまた面白かった。ロシアの古い村の家と人、そして朽ち果てたロシア正教の教会をあちこちで見ることができたから。つい数年前まで、外国人はモスクワから40キロ以上の場所には行けなかったことを考えると、それは素晴らしい経験だった。

そして、夜、ささやかにウォッカを飲みながら、ロシアの友人たちのユーモアたっぷりの会話と静かな歌。経済困難のロシアの、まったく別な顔を見せてもらった日々だった。日本も「アウトドアー・ブーム」? うーん、ちょっと違い過ぎるぞ。(江本嘉伸)



■先月の地平線報告会の案内(イラストのなかにある手書き文字)

ラテンアメリカの光と厄
「海外の旅が趣味で、ライフワーク」というフリーライターの滝野沢優子さん(33)は、これまでも主にバイクの単独行で、オーストラリア9ヵ月、西アフリカ・ヨーロッパ各3ヵ月と、長期の旅をしてきました。
今回は中南米縦断。国境通過で手間取るなどの理由で一時帰国を2回はさみ、3回に渡り約14ヵ月の旅になりました。それだけに、リオで強盗に襲われたり、帰国中にパスポートやビザなどをそっくり失くしたりとハプニングも多かったそうです。
「丁度去年が数えの厄年で、今年は満の厄年だしょ。厄払い、2度もしましたよ〜」。とはいうものの、思ったよりラクだったとの感想。女一人の旅も「ちやほやされるっていうメリットの方が大きいんじゃないかなあ」。特に印象的だったのは、日系人の人たちとの出会いという。
Yuko流中南米旅行術に乞う期待!
(絵と文:長野亮之介)



編集長の三五君が超多忙モードで連日睡眠時間3時間だった影響をもろにかぶって、発行が遅れてしまい、報告会間近になってようやく到着するような事態になってしまったことを深くお詫び申し上げますm(_ _)m。今月の「地平線通信」第192号は、10月16日頃発行の予定です。



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