The Chiheisen News 2003-03

■ キャンベラの神谷君から、山火事の報告
あと7kmぐらいまで火の手が迫っていたそうです。


私(丸山)の高校時代からの友人で、2年前からキャンベラに家族ぐるみで赴任している神谷夏実君(82年11月・第37回地平線報告会報告者)から、キャンベラの山火事のレポートが入りました。ケイビング仲間をはじめ、安否を心配している人も少なくないと思いますので、以下、少し長くなりますが、神谷君からのメールの一部を転載します(禁無断転載)。自宅からわずか7kmのところまで火の手が迫っていたこと、100m幅の防火帯を火がやすやすと乗り越えてしまったことなど、ほんとにぞっとさせられますね。自然の力の大きさを、あらためて思い知らされました。[丸山]

●その1・Date: Mon, 20 Jan 2003 14:30:41 +1100
キャンベラでの山火事について、ご心配かけましたが、我が家は大丈夫です。早くメールをしようと思っていましたが、自宅が停電状態でパソコンが使えませんでした。電気は今朝(20日)復旧しましたが、電気のない状態が2晩続きました。我が家は調理、給湯を含めてオール電化です。今、夏なので昼間は35度まで気温があがりますが、乾燥しているので、シャワーなしでも何とか過ごせました。また、庭のバーベキュー用のガスコンロがあるので、キャンプ気分での生活でした。今朝は、給湯器の残り湯でシャワーを浴びましたが、最低気温は11度なので寒いくらいでした。

我が家は大丈夫ですが、400件の家が燃えてしまったので、被災者はお気の毒です。オーストラリアでも最大の災害となったそうです。

20、21日とも最高気温が35度以上とされており、まだ周辺で火がくすぶっているので、まだ警戒状態は続いています。風が強くなると要注意です。今、午後2時ですが、風が出てきた上に、町中が煙ってきました。

これまでの経緯は以下のとおりです。

【山火事の発生状況】
山火事はこの1週間前から、キャンベラ市の西方の山間部等で起ており消火活動が続いていたが、18日(土)になって折からの西風もあり急激に発達した。これが、18 日(土)の午後、折からの西風にあおられ、急速にキャンベラ市街地の西部に近づき、キャンベラの西側の縁辺部を中心に多くの住宅、その他の施設が焼失した。18日の午後から夕刻にかけては、高温で、非常に乾いた熱風が西方から吹き荒れ、空は灰により太陽が隠され、それが西日に照らされ真っ赤になり、異常な光景となった。車の温度計で38度くらいあった。もっとも被害の大きい地区は、神谷自宅の西方7kmの地区で、距離的には近く、一時は灰、焦げた葉っぱが飛んできたので、緊迫した瞬間もあった。

18日の深夜以来、風は納まり、空も澄み渡った。19日は再び市内には煙と燻りくさい匂いが立ち込めたが、気温が上がらず、風もなく、静かであった。
 今朝は、通勤途中、近くの森がくすぶっており、消火ヘリコプターが湖の水をくみ上げ、WaterBambingを繰り返していた。

【現在の被害】
死者4名、負傷者300名、焼失家屋約368戸。被災者2500名。その他、市内の25%が停電。(神谷自宅は、18日夕刻〜20日午前まで停電) その他のエリアの電力、給水、ガス等は大方問題ない。

【市内の様子】
被災地には行っていないが、新聞報道でみる限り悲惨な状態。その他、市内の治安等は特に問題はなく平常。目につくことは、停電のため交通信号が一部で消えていたり、アウトドア屋が混んでいたりする程度で、その他生鮮食料品、ガソリン等は問題なし。学校は夏休み期間中で、児童は自宅にいるので、特に問題は出ていない。

この1週間、周辺での山火事で市内は煙っていました。昨年も家の近くで山火事があったし、シドニー周辺やビクトリア州等、山火事はどこでも起きているので、山火事は日常的になっていたのですが、18日(土)は異常でした。午後から40度近い熱風が市内に吹き荒れ、空は、灰で赤くなり、「熱くて、カラカラの台風並みの暴風」でした。近くの丘に登ったら、遠くで火が見えるし、空は真っ赤でした。
 
土曜日は一応避難できる準備をして、一晩中ラジオを聞いていました。夜暗くなっても、なんとなく周囲は赤く光っていました。夜半には、空も晴れ、嵐の後の静けさとなりましたが、あまり眠れませんでした。何しろ、最も被害の大きい地区は自宅から7kmしかないのです。焼け出された人の話では、とにかく「あっという間」だったそうです。新聞には燃えた消防車の残骸の写真もありました。

最近、お日様は、灰色の空にオレンジの塊でポカンと浮いているし、お月さんは真っ赤なんです。

キャンベラは、整然と区画され、人工的に建設された首都でインフラも整っていますが、山火事という自然災害に弱い一面が露見したことになります。住宅地も道路や庭が広くスペースがあるのですが、山火事は予想以上の速さで襲い掛かったのです。オーストラリアは今年記録的な旱魃状態で、キャンベラでも強制的な節水が始まっていたところで、森も住宅もカラカラの状態だったことも、被害を大きくする要因となったようです。それにしても、火の脅威は人の活動をはるかに超えており、自然の怖さを思い知りました。

というわけで、今日はほぼ普通の正確にもどることができました。


●その2・Date: Wed, 22 Jan 2003 19:19:06 +1100
新聞によると、1月に入ってからビクトリア州ではすでに3900平方kmが燃え、キャンベラに隣接するコシオスコ国立公園(豪最高峰コシオスコ山がある)でも1500平方kmが既に燃えたそうです。コシオスコ公園は半分が焼失したことになります。キャンベラの南西部は大きなナマジ自然公園があるのですが、ここで発生した火災が今回大きな打撃を与えました。これだけで、埼玉県(6900平方km)くらいの面積が燃えたことになります。これらの公園はオーストラリアを代表する森林地帯なんですが、今回はこれが裏目にでてしまったということかもしれません。ちなみに、東京都の面積が2186平方kmです。

キャンベラの面積は2360平方km、人口は約30万人です。全世帯数が約11万戸なので、200戸に1戸くらいの割合で家屋が焼失したことになります。キャンベラの面積は東京都や神奈川県(2413平方km)はほぼ同じです。東京都と神奈川県の人口はそれぞれ1180万人、840万人くらいです。人口密度で30倍違います。キャンベラは計画都市で、道路や家の造りはかなり余裕を持って造られています。普通の住宅も平均的面積は500〜800平方m程度です。それでも自然の脅威の前にあっけなく燃えてしまいました。

昔のニュース
74−75年の夏、オーストラリアの15%が山火事で燃えてしまったことがあります。このときは、旱魃の今年と逆に、降雨が多すぎて草木が生えすぎたことも大火の原因の一つとされています。この都市の焼失面積は117万平方km、つまり日本の3倍になります。雨が降りすぎても、今年のように足りなくても、山火事は起こるようです。

オーストラリアでは、山火事(ブッシュファイアー)は、それほど日常的な出来事です。今もシドニーからメルボルンにかけての広大な地域のあちこちでくすぶっています。自然の摂理の一つということです。

なお、日を追って身近な友人に被災者が出てきました。5家族が家を失い、1家族は牧場が焼け羊が400頭犠牲になったとのことです。

今夜やキャンベラの北方10kmで燃えている山火事のために警戒体制となっています。風が吹くと10kmくらい、あっという間に火が走るということです。

●その3・Date: Sun, 26 Jan 2003 09:10:06 +1100
その後は静かですが、市内は煙っている状態です。北方の山火事がまだ警戒対象で、1000人規模の体制で防火帯作ったりしています。

昨日、被災した友人の家に手伝いに行ってきました。最も被害に大きかった地区です。復興のための作業が始まっています。完全に燃えた家とまったく燃えていない家のコントラストがはっきりしていて、半焼の家が少ない印象でした。あっという間に消火作業もできずに燃えたのでしょう。周囲の森林帯とは100m以上の防火帯で隔てられているのに、火はこれを乗り越えたのです。周囲の林は木々は完全に燃え尽きたのではなく、幹は残っています。1週間たったのにまだ、あちこちで煙が出ていました。



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