The Chiheisen News 98-24



■カラコルム雪崩遭難の報告書『スキルブルム7360』刊行。
神奈川ヒマラヤンクラブ編。美しい写真を満載し、クールに事故原因を分析。

スキルブルム7360表紙●ずっとご紹介しようと思いながらなかなかチャンスがなかったのですが、8月下旬に『スキルブルム7360 夢は白き氷河の果てに』という、昨年カラコルムで遭難した広島三朗さんたちを追悼した報告書が出版されました。

●このページの後半に、内容や体裁を紹介したチラシと、編集・発行を担当された神奈川ヒマラヤンクラブの尾上弘司さんの挨拶文を転載しておきますので見ていただきたいのですが、美しい写真が満載された、写真集とも言えるようなひじょうに立派な報告書になっています。これでたった3000円(税込み)とは、信じられません。

表紙も、スキルブルムの迫力ある写真の上に、トレーシングペーパーにタイトルがくっきりと印刷されてカバーとしてかけられているという凝った作りで、内容にふさわしい格調と奥ゆかしさを感じます。見方によっては、涙に曇った目でスキルブルムを眺めているような、あるいは雪崩の雪煙を象徴しているような、そんな印象さえします。

●もちろん、素晴らしいのは体裁だけではありません。まず、巻頭の山の写真が連続したあとにくる尾上さんによる「はじめに」が、的確に今回の遭難をまとめながら、亡くなった6人の仲間に深く想いを寄せる内容で、胸を打ちます。続いて、雪崩発生の直前の状況から救出作業や遺体の埋葬、さらにはヘリコプターによる搬送までを綴った谷口浩平さんの「八月二十日の手記」が、今回の遭難の一部始終をなまなましく再現していて、圧倒的な迫力で迫ってきます。

そのあとに、氷雪学の専門家で、黒部峡谷のホウ雪崩の研究をしている富山大学理学部の川田邦夫助教授へのインタビューがありますが、今回の事故の分析から雪崩の予測法や危機回避の方法などがわかりやすく述べられていて、山をやる人なら、これはぜひ読んでおきたいものです。

さらに、成田から出発して、ふたたび帰国するまでの毎日を簡潔に日記形式で収めた「行動記録」、各人の活動をグラフ形式(高度と日数を字句とした折れ線グラフ)で表わした「行動パターン」、食糧や装備、会計などのリストやコメントが続き、そして生還したメンバーによる「あのとき、何ができたのか」という座談会があります。

●この座談会を読んで、これまで思ってもみなかったショッキングな事実が、いくつか明らかになりました。

新聞報道などより、崩落箇所とベースキャンプはどうやら、やや近かったらしいこと。障害物のない平坦な地形がテントサイトとして絶好のものと思えたのに、もしかしたら雪崩にともなう爆風によって吹き飛ばされて、そういう地形になっていたとも考えられること。前日にも大規模な雪崩があり、隊員たちは心の底では「ヤバイなぁ」という気持ちを抱いていたこと。その気持ちを、ヒマラヤの大ベテランの前で表明することに躊躇してしまったこと。そしてなによりも、登頂成功の興奮と、あと数時間でここを撤収して帰国するという、気の緩みがあったこと。前日(19日)の大雪崩がもし10日前に起こっていたら、きっとベースを移動していたに違いないこと……。

これまで、広島さんが採ってきたスタイルや原田さんらの実力を考えて、今回の事故は避けようもなかったという意見が新聞報道などでも主流だったと思いますが、そういう“聖域”に、この座談会は一歩踏み込んでいるとも言えるかもしれません。隊員ひとりひとりはそれぞれ異なる意見・感想をいだいているようで、ここまでまとめるのはたいへんだったと思いますが、それをあえて「のちに登る人たちの役に立つんだ」と報告書に掲載した編集担当者の勇気に、敬意を表したいと思います。

●そのあと、隊員の紹介が写真入りで続き、最後に各界の人たちが寄せた27の追悼文が並びます。なかでも本多勝一さんの「『冥福を祈る』などといった決まり文句など、腹立たしいだけだ」という箇所が、私たちの気持ちをそのまま代弁してくれるような気がして、何度も読み返してしまいました。

申し込みなどは、下記の尾上さんまで。この報告書を見たら、きっと広島さんは「おおっ、よくやった」と喜んだでしょうね。

【ご参考】遭難直後のコメントです。


新刊

スキルブルム7360
夢は白き氷河の果てに

刊行のご案内



 このたび私ども神奈川ヒマラヤンクラブでは、昨年のパキスタン/カラコルム・スキルブルム峰遠征の報告書として『スキルブルム7360 夢は白き氷河の果てに』を刊行する運びとなりました。

 1997年8月20日、遠征終了間際に起きた神奈川ヒマラヤ登山隊の雪崩事故については、連日大きく取り上げられた新聞等の報道によってご存じの方も多いかと思います。
 登頂を果たし、夜が明ければ撤収して帰国……「まさか」というときにべースキャンプをおそった氷河雪崩は、カラコルムの山々をこよなく愛していた6人のベテランクライマーの命を奪いました。
 本書では、黒部のホウ雪崩の権威である富山大学川田助教授に取材し、隊員の証言とともに状況報告、原因分析、行動記録などを収録しました。この他に通常の登山報告書としての記事も整えております。またグラビアページには、雪崩事故による散逸を免れた貴重なフイルムに残された山岳写真や登はん活動とキャラバン・キャンプ風景のスナップ写真を数多く収録しました。
 巻末には、亡くなった隊員達に寄せられた追悼文を掲載しております。山を通して内外に知己の多かった6人を偲ぶよすがとしてまとめました。

 本書を刊行するにあたっては、大きく分けて2つの目的があります。ひとつは亡くなった仲間に喜んでもらえるような立派な登山報告書と追悼文集を作ること。そしてもう一つは、このようなことが繰り返されぬよう、今後ヒマラヤの高所登山に挑む人々の参考になる資料的価値のある本を作ることです。
 是非ご一読賜れば幸いです。

                  1998年秋
                  神奈川ヒマラヤンクラブ代表
                  尾上弘司

                  〒259-0151
                  神奈川県足柄上郡中井町井ノ口1267
                  Fax0465-81-1089




 スキルブルム7360
 Japan Skilbrum Expedition 1997

     夢は白き氷河の果てに
 神奈川ヒマラヤ登山隊1997スキルブルム峰登山報告書


【主な内容】

●写真集スキルブルム峰とヒマラヤの山々を地上と空から撮影した山岳写真ほか、登攀中のスナップ、和やかなキャンプ風景とキャラバンの様子、そして隊員16名の素顔を収録。

●登山隊報告・資料集雪崩発生当目の手記、専門家による事故分析、出発から登頂、失意の帰国まで全51日間の行動記録、登攀中の行動パターン、各種資料など、多面的に今回の遠征と事故を振り返る。

●追悼文集氷河に眠る6名の隊員に寄せられた、27通の書簡集。

●仕様A4変形版128ページ(写真集48ページ、本文80ページ)
定価3000円(本体2857円)郵送の場合別途送料を申し受けます

神奈川県内および東京都下主要書店、ICI石井スポーツ、カモシカスポーツ、ニッピン、IBS石井スポーツなどの山岳用品店にてお求めいただけます。または注文カードを下記連絡先までお送りの上、お申し込み下さい。ファクス・ハガキ・電子メールでのお申し込みも承ります。

           神奈川ヒマラヤンクラブ事務局
           〒259-0151 神奈川県足柄上郡中井町井ノ口1267
           尾上弘司方
           Fax:0465-81-1089
           e-mail:
           郵便振替:00280-6-17193

 

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             【注文カード】

   『スキルブルム7360 夢は白き氷河の果てに』



   定価3000円(本体2857円)  ×      冊

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   電話:

   住所:〒

 

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