The Chiheisen News 99-10



■安東浩正さんの初の著書、『チベットの白き道』
1995年に敢行した、2度にわたる冬期チベット高原単独自転車踏破の記録。

●地平線HARAPPAのログから

01749/01750 PEG00430 丸山 純 安東浩正著『チベットの白き道』
( 1) 99/05/13 21:22

表紙●先月の地平線報告会で、安東浩正さんの『チベットの白き道――冬期チベット高原単独自転車横断6500キロ』(山と溪谷社)を買いました。3月に5冊だけ持ってきてくれていたのですが、すぐに売り切れてしまい、1ヵ月遅れの入手となりました。でも、奥付を見たら、発行は4月10日。3月は早めに著者の手元に届いた、できたてのホヤホヤ分だったんですね。

安東さんといえば、「地平線Webギャラリー・Spice!」に、いちばん先に写真を提供してくれた人として、いまでも私には強く印象に残っています。最初は彼がどんなことをしたのか、あまりピンときていなかったのですが、写真をじっくり眺め、キャプションをふむふむと読み、そして地図でルートをトレースしてみて、あまりのすごさにぶったまげました。

ヒマラヤや中央アジアに関心がある人なら一度は行ってみたいと思っている、あこがれの土地。いまでもそのほとんどが未開放地区で、莫大な金を積んでツアーに仕立てなければとうてい行くことができません。標高も高いので、ただ行くだけでもたいへんなところなのに、そこを“冬期”に自転車で、しかも単独で走っているんです。

今回の本は、中国の雲南省の昆明市に留学生として在学していた1995年におこなった2つの大自転車旅行について、まとめたものです。安東さんはいまたしか会社務めをしていて、プロのライターなどではもちろんありませんが、九里君のチベットを走破した著書がひじょうに売れているということで、思い切って同じ山溪に持ち込んだのだとか。勇気ありますね。

●全体は3つの章に分かれていて、まず最初が、カトマンズからそのまま北に国境を越え、中国側に入り、チョモランマをはじめヒマラヤの裏側を眺めながらラサまで走ります。ラッセルを繰り返し、自転車を引きずり、高山病でふらふらになりながら進む雪の峠越えのシーンがすごい。彼の自転車は、なんと中国製のマウンテンバイクで、重さ16kgもあるんですね。

峠を越えて広がる、チベットならではの赤茶けた世界。そこで出会う巡礼者や安宿の人たちとの出会いのひとこまが、しみじみと印象的です。

続いて、ようやくたどり着いたラサから、まだほとんど旅行者が入っていない東チベットを通り、すでに新学期が始まってしまった学校のある昆明まで走るのが、第2章。昆明の手前にある大理(大理石の大理)の食堂にあるカツ丼を夢見てひたすらこぎまくるのですが、あまりにもそれが切実で、こちらのほうのお腹もぐうぐう鳴りそうです。

そして第3章では、いよいよ昆明を引き払って列車でカシュガルまで行き、そこから聖山カイラスを経由して、前回ネパールから入ってきた地点までやってきて、そのあとカトマンドゥからインド洋をめざすところで終わっています。

読んでいて何度も打たれるのは、とにかく困難を求めて、命の危険をかえりみず、ただひたすら前へ前へと進んでいくこと。安東さん自身も、そして読者である私も、過去にその土地でどれだけの人が命を落としたのかよくわかっているのですが、ぜんぜんめげることがない。いくら大学で山岳部の経験を積んでいるとはいえ、あれだけの高所であれだけの運動ができるのは、並外れています。よっぽど自分に自信があるんでしょうね。登山で言えば、8000メートル峰を登るのに匹敵するような、極限の世界でしょう。おまけに、ほとんどが未開放地区での隠密行動だし、食糧なども苦労しながら手に入れながら進んでいくんです。

安東さん●文章は全体に軽快で、口語調の部分もけっこうあり、楽しく読めますが、使われている言葉が、やはり机上のものではない、ホンモノの迫力に満ちています。極限状況、とくにカイラスに近づくあたりなどは、これまで読んだどんな探検記・旅行記より素直で力強い言葉が羅列されていて、こちらの魂までしんしんと澄んできました。

これだけの旅、やっぱり地平線報告会でちゃんと話を聞いてみたいですよね。学生証を見せて、僕は授業に間に合うように昆明の大学に戻ろうとしているだけです、などと言い逃れするところもおもしろく、どきどきします。そうそう、写真もすごい。本文を読んでいるので、なんでこんなところで自分を入れて写真を撮ることができたんだと、不思議に思うことしきりです。

Photo:4月の報告会で自著を紹介する安東さん

 安東浩正
 チベットの白き道――冬期チベット高原単独自転車横断6500キロ
 山と溪谷社
 1700円
 ISBN4-635-28042-X

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